無常の風に乗って 2

六子(ロッコ)ちゃんは、5年前に八頭町で放浪中のところを捕獲された保護犬です。

当時 誰も飼い主が名乗り出ず、年齢も若くはないこともあって やむなく殺処分という流れになるところでした。

 二ヶ月ばかり前に 愛犬のラブラドールレトリーバー 剛ちゃんの天寿を全うさせて 毎日のように遺骨を納めた慰霊塔に詣でていたIさんに この子の話をしました。

1年ほどの介護を尽くして 15歳で看取ってから日も浅いので とても次の愛犬候補としては考えにくいと思いつつも 半分冗談のようにして持ちかけてみました。

すると、この子の行き場が無い場合、やむなく処分になるかもしれないと聞いた直後、Iさんは 「じゃあ、うち来るか?」と もう 犬に声をかけているではありませんか。

良く見ると ラブラドールっぽく、先代剛ちゃんと重なるものもあります。

(先代剛ちゃんは 全盛期50kgの巨漢でした)

こうして いそいそと この子を車に乗せた日から5年後の昨日 9月3日未明、六子ちゃんは 天寿を全うしました。

この写真は 亡くなる1週間前に ビンチェーロを訪れたときの姿です。

久しぶりにお店に連れてきてもらい、「あら、六子ちゃん 久しぶり。」と挨拶すると、飼い主のIさんは 「最後のお別れに来たのよ。」と言うじゃあありませんか。

意外すぎる言葉にドキッとして 彼女の顔を見ると 悲しそうな表情を浮かべて 六子ちゃんの肺に腫瘍がいくつもできており、余命いくばくもないと言われたと 教えてくれました。

思わず号泣。

嘘でしょう。

そんなこと あるんかいな。

私は 冷静になろうと努めるも、発作のようにせきあげます。

これが 最後の姿かと思うと かける言葉も 向ける視線も分らず、ただ狼狽するばかり。

そして、この日から一週間後の昨日3日 年齢は不詳ながら 10歳は超えているであろう命の営みを終えました。

「おばちゃん 私 行くね。 短かったけど ありがとう。」とでも言ってるかのような眼差し。

胸水を抜くこと3回。呼吸がしづらそうになると その都度 走り 病院に担ぎ込んでおられました。

水を抜いた後は楽になり 横になることができたり、食欲が出たりしていたのですが、二日もすると また溜まってくるのです。

末期は苦痛が予測されるため、安楽死の選択もやむをえないかとは思いましたが、Iさん一家は検討の末、六子の苦しみは家族で分かち合いたいと意思表示をして 最後まで人工的手段には頼らない方針を決めました。 

そして、その気持ちが通じたのか、ついに 見るにたえない苦しみがないまま、六子ちゃんは 安らかに息を引き取ったそうです。

 

 

5年前、Iさんちの子として引き取られた当日の六子ちゃん。

六子という名前は私がつけました。

先代犬が剛(ゴウ)だったので次はロクだという単純な発想です。

とても大人しくて 優しい目をしていました。

どうして こんな子が捨てられるのでしょうか。

受け口だから? 雑種だから? 

 

 

 

ろくに食餌も摂れていなかったのか 痩せこけた身体でした。

一体 どんな経過をたどってきたのでしょうか。

疲れ果てたようにも見えます。

 

 

 

年を重ねるほどに体重も増えて、しっかりした肉付きになってきました。

I家での愛情にあふれた暮らしが 彼女を健康にしてくれました。

いつも 穏やかな目で 見る人をホッとさせてくれました。

最初 相談も無いままに連れ帰った折には、ご家族からブーイングもあったようです。

先代 剛ちゃんの想い出が生々しいうちに こんな子を連れ帰ってきたのですから すんなりと受け入れる気になれなかったのでしょう。

どんな親で どんな過去で どんな背景を持つのか 全く謎の犬ですが、少なくとも この子に罪はありません。

慈悲深いIさんは 処分されるかも知れない子に 知らん顔で背を向けることができませんでした。

やがて、つい口癖で「ゴウちゃん」と呼んでしまうご主人も 六子ちゃんの優しい性格と愛らしい風貌に 愛情を覚えるようになりました。

老犬であってもかまわない。ご縁ある子として 全力で守ろうと、家族一致で 六子ちゃんを迎えることになりました。

不治の病と聞かされたショックは大きく、家族で絶望の淵に突き落とされた心地でしたが、目の前で 懸命に生きる命を 最善の力で支えることを誓ったのでした。

胸水を抜いたりする緩和治療といえども 医療費は決して安いものではありません。

成人した二人の子供さんが その治療費を共同でまかなってくれたそうで、頭の下がる想いです。

 

六子ちゃん、あなたは 家族全員の癒し係として この5年間 立派に愛犬としての務めを果たしました。

疲れたとき、悔しいとき、怒りを覚えたとき、悲しいとき、尻尾を振って 近寄ってくるあなたの存在に どれほど救われたことでしょう。

あなたは 何才か分りませんが、かなり年を取っていたのかもしれません。

それでも 家族の中で あなたは常に 天使のままで居てくれました。

本当に 本当に 来てくれて ありがとう。」

 

そういう表彰状を渡したい気持ちです。

 

 そういえば 六子ちゃんは 吠えることがない子でした。

亡くなる前の晩 二声ほど鳴いたのが最初で最後だそうです。

不思議な、そして 魅力的な犬でした。

 

 今日 日本列島を吹き荒れているのは無情の風。

そして、この世に 常に吹いているのは無常の風です。

命あるものの宿命ともいえる風に乗って また 一つ 清らかな命が 果てしない世界に飛んでいきました。

|店主のつぶやき|15:09| - | 2018.09.04 Tuesday |