ゴンちゃん 生き切りました

 3年ばかり前の深夜、浜村地区の国道沿いを歩いているところを 通りがかった人に保護されたダックスフントが居ました。

人懐こくて可愛い子ですが、老犬である上に、喉にわずかなふくらみがあり、腫瘍が疑われました。

一旦 保健所施設に収容されましたが、老いて、悪性腫瘍を抱えた身では、譲渡先が見つかる希望は極めて薄く、先の短い運命に暗雲が垂れ込めているのが気の毒でなりませんでした。

 何年か前、やはり、フィラリア末期で 余命いくばくもない大ちゃんという元保護犬を引き取り、最晩年を家庭で世話したいと申し出たAさんを覚えておられますか?

腹水がたまって苦しくなった身体は、治癒の見込みがないままに衰弱していくばかりでした。

その大ちゃんを 自宅で手厚く世話し、緩和ケアに努め、見事に看取ったAさんという人には、類まれな偉大さを覚えたものです。

そのAさんが、またしても 看取り覚悟で引き取ったのが このダックスフント「ゴンちゃん」でした。

 ゴンちゃんの喉にできた腫瘍は 時を経て どんどん成長していきました。

手術や抗がん剤治療などの医療を断念して、自然に任せて見送るつもりで臨むも、ゴンちゃんは、不思議にも元気に生き永らえ、当初数ヶ月持つかというところを なんと2年半生き、いや、生き切って ついに12日午後 命の営みを静かに終えました。

 

 引き取られた後の2年ばかりは 不治の病を感じさせない元気さで、食欲旺盛、同居犬のペロちゃんを従えて 機嫌よく暮らしていました。

ここ半年前ごろから 腫瘍が声帯を圧迫し、声を発することはできなくなっていました。

しかし、生活には特段支障なく、どんどん巨大化していく喉の瘤が さぞかし邪魔だっただろうに、苦にする風情もなく 普通に過ごしてきました。

最近は 気道も圧迫されるのか、呼吸にも影響が出ることがあり、病が これから どのように この子を苦しめるのかと Aさんも、覚悟しているとはいえ気が気ではなかったと思います。

 ごく最近になって 食の摂取量が減ったことや、いよいよ酸素室を借りてのケアに入ったことを知りました。

 

 春の陽光降り注ぐ12日の午後、私は 運転中の窓越しに晴天を眺めるうち、こんな日に ゴンちゃん 安らかに旅立てたらいいなあと考えておりました。

残された余命がわずかならば、本格的苦痛を知る前に、旅立たせたい。

そう願い、ハンドルを握りながら、心の中で 祈りました。

 不思議な偶然か、それから1時間ほどで 私の祈りが通じたか、Aさんから彼の訃報が入ったのです。

保護当時から 少なからず縁あって関わってきた私は、亡骸に 労いの言葉をかけようと Aさん宅を訪ねました。 

 A家の 台所の一隅の、彼が好んでいた定位置に、動かなくなった姿が横たわっていました。

こんなに大きくなっていたのか・・・・。

横たわったその喉に憑りついたこぶは、こぶとり爺さんを彷彿とさせる大きな塊となっていました。

こんなこぶを抱えながら、憂鬱にふさいだり、自暴自棄に陥ることなく、明るく 尻尾を振って 最期の日まで生き切ってくれたゴンちゃんの偉大さとけな気さに、ただ労いと敬意を表するばかりの私でした。

最後には 得体の知れないこぶに屈服することにはなりましたが、見事に生き切った2年半に拍手を贈らずに居られません。

 

 生前のゴンちゃんです。

喉にできたこぶが邪魔して 下を向くこともままならない生活でしたが、Aさんが 常に笑顔を絶やすことなく支え続けました。

不気味な瘤、厄介な病と知りながら迎え、手間や介護の労を惜しむことなく 彼女は またしても、質を落とすことなく、尊い命を守り切りました。

誰が捨てたとも知れない保護犬、未知の試練が待ち伏せる先の短い老犬に、慈悲の手を差し伸べたAさんは もはや人間ではなく、菩薩と化していました。

亡くなる数日前には 夜中も介護の手を休めることなく、献身的に向き合いました。

積極的治療をしないまま、病を受け入れ、くじけることなく生き切ったゴンちゃん自身も見事ですが、それを支えきったAさんの偉業には、まばゆい光が射しています。

 この2年半の歳月、口ばかりの愛護心ではなく、まさに慈母観音となって黙々と使命を果たしてきたAさんに、どうか 皆さまも心の中で拍手し、ねぎらってあげていただければと願います。

 生前 私が訪ねると 愛らしい姿に似合わない野太い声で出迎えたゴンちゃんは もう居ません。

残された これまた保護犬のペロちゃん(後ろ)が、元気で一生を悔いなく全うできるように 引き続き応援をしていきたいと思っているビンチェーロ店主です。

 ゴンちゃん、あの日 国道で轢かれなくてよかった。

保健所で最期を迎えなくてよかった。

Aさん始め、たくさんの人の愛にふれられて よかった。

「ゴンちゃん」と 名前を呼んでもらえる日々をすごせて よかった。

幸せな終わり方ができて 本当に 本当に よかったね。

|店主のつぶやき|21:47| - | 2020.03.13 Friday |